すずめの歌

夫と2人暮らしの日々

「時計が行きたいところ」は?

芥川賞選考委員をしている
男性作家の
自伝的小説を読んだ。





一人息子さんを育てる話が
軸になっている。





なかなか面白く、
考えさせられる本だった。





私は、
この作家の小説を読んだこともなく、

彼について無知なので、

どこまでが事実なのか、
わからないが、
かなり正直に
事実を書いているような印象を

受けた。







私が
驚いたのは、
息子さんの小学校選びだ。





公立ではなく、
私学へ入れることになり、
2校受かった。





それぞれ、卒業生である知人に、
「どうだったか?」と尋ねた。




A学園卒業生は、
「楽しかった」と答え、


B学園卒業生は、
「辛かった」と答えた。




そこで、
作家と奥様は、


「多少は辛い目に遭った方が
反抗心が育つ」


「揉まれたらいい」と考え、


B学園を
選択するのである。






しかし、
息子さんは

既に
B学園の幼稚園に通っている。





そこでの様子は、
先生によると、
「泣きながら遊んでいる」
というのである。






「ウーン、私なら、
A学園を選ぶなあ」と、
私は思った。





幼稚園で苦戦している、
ということは、

おそらく
集団生活で苦戦しやすい

ということであり、


小学校でも
楽な生活は

送れないだろうと
思うからだ。





私自身は、
小中高合わせて、
4回転校した。


転校すると、
なじむまでが大変だった。




その上、私はずっと、
父母から、
それぞれのやり方で
心理的虐待を受けていたため、
辛い子ども時代を

過ごした。





だから、
「将来のためにだけ
子ども時代は

あるのではない。


子ども時代そのものを
楽しい時代にすることは

大切だ。


二度とない
貴重な子ども時代を、
将来のために
犠牲にし、
不幸にしてはいけない。」



私は
そう考えている。





それに、
人生の先輩たちを見ていると、


最晩年には、
幸せだった子ども時代を思い出し、
幸福感に浸ることが
最大の喜びとなったケースも多い。





すなわち、
「幸せな子ども時代」というのは、
「生涯の財産」なのだ。






しかし、
作家夫妻は、
B学園を選んだ。





「獅子は
千尋の谷に我が子を突き落とす」
という言葉もあるが、


「勝ち組」である成功者は、
自分自身が
試練を乗り越え、

勝利してきた人たちだ。





だから、我が子にも
それを
期待するのだろうなと
思った。





しかし、
私は「負け組」だ。


試練に耐えられず、
敗北している。





だから、
我が子にも、
「なるべく

キツい試練は与えたくない」と
思ってしまうのだろう。






それから、
幼稚園時代の息子さんが、



スリッパに向かって、
「一番嫌なことは何?」


「脚が臭い人に履かれた時。」




ベッドに向かって、
「一番嬉しいのはどんな時?」



「疲れてる人に寝てもらった時。」




時計に向かって、
「行きたいところは何処?」


「百年後。」



などなど、


自分で尋ねて
自分で答える
一人遊びをしていた……


というエピソードが
凄いと思った。





なんという
詩的な天分だろうか……。





言語的にゆたかな天分に恵まれた子というのは、
幼い頃から
こういう言葉を発するのだなあ……
と感動した。






しかし、
小学校入学後の息子さんは、
とんでもなく

算数ができないと
判明した。





ご両親は、
夜遅くまで、

熱心に宿題をみてやった。





小学校低学年の息子さんの
睡眠時間が、
8時間を切っていたというのだから
驚く。




その上、ご両親は、
「なんでできないの」
とか

「おまえ、本当にバカだな」と


息子さんに
言ってしまったらしい……。





しかし、
幸いなことに、


息子さんは、
特に大きくは

歪まなかったらしい。



多少、屈折した跡は見られるが……。





元々、強い子だったのだろう……。






もし、私の息子に、
同じ言葉を

かけてしまっていたら、
どんな悲惨な結果に

なっていただろう……。






やはり、
元々強い子、

元々弱い子という
差は

あるのだろう……
と思う。







また、
「村上春樹が嫌い」とも
書かれてあった。



その理由も
面白く読んだ。