すずめの歌

夫と2人暮らしの日々

自閉症的な人は、親の真意を汲み取れない。

私の父は、三男だった。






家業を継ぐ筈だった
長男は、
嫁が出て行ってしまったため、
その後を追い、
家を

捨てた。






次男は、
徴兵され、
戦死した。







三男だった父は、
最初、

私大に入った。






しかし、
次男が
戦死した後、


母親の命令により、
師範学校へ

転学させられたらしい。







父は、
そのことで、
母親を

恨んでいた様子だった。






何度か、
「母親に、

師範学校へ行かされた」と
恨みがましく

言っていた。







おそらく、父は、
私大で、
憧れていた学問を

したかったのだろう。







ところが、
三男までも

徴兵されて失うことを恐れた
母親により、


文系私大を
やめさせられ、
師範学校へ

入らされた。







当時は、
師範学校生や教師は、
一般よりも

徴兵されにくかったらしい。







事実、父は、
徴兵されなかった。






そして、
敗戦まで、
無事に

生き延びた。







母親の配慮の賜物だ。







ところが、
父は、
「母親の判断の御蔭で、
命拾いした」とは
考えなかった様子だった。







逆だった。








「母親のせいで、
好きな学問をする進路を

妨害された。


うまくいけば、
憧れの学者になれた筈の将来を
母親のせいで、

断たれた」と、


母親を
逆恨みしたようだった。








客観的に見て、
悪いのは、

母親ではない。






悪いのは、「戦争」だ。








「戦争」は、
多くの人の人生を
大きく

歪めた。







父も、
その犠牲者の1人だった。








しかし、
多くの優秀な学生が

学徒出陣し、
前途有為な若い命を
あえなく散らしたのに

比べ、


父の命は、助かった。







だから、
父は、
助かった自分の幸運を
むしろ、
喜んでいいはずだった。







少なくとも、
母親を

恨むべきではなかった。







それなのに、
父は、

違う考えを持っていた。







「息子の命を
絶対に助けたい」という、
母親の

真剣な意図を汲まず、


逆に、


「母親は、
自分の望みを踏みにじり、
進路妨害した」とのみ
考えていたようだった。







その考え方は
間違っている。






それは、
異常な考えだ。







つまり、
父も、
私の息子同様、



「親が子に向ける深い情」
というものを


「全く理解できない人」
なのだろう……。







父は、
被害妄想的に、
自分を

「一方的被害者」として考え、


「母親が
自分の進路妨害をした」という、



極めて
表面的、
部分的な事象しか
見て取ることが
出来なかった。







母親の行為の
奥底にある、
「母の強い愛」を
感じ取ることが
出来ず、


「母が
自分の命を救ってくれた」という
大局観も

持てなかった。







そして、
その自分の考えの

「異常さ」を
自覚出来なかった……。









「自閉症的な人」とは、
なんと、
困った人だろうか……。








父は、
長らく、
自分の母親のことを
「極悪人」と断じ、

非難していた。







しかし、この、
「私大から

師範学校への転学」の
一事だけを

考えてみても、


私には、
父の母親が、
「極悪人」だとは
思えない。




「普通に子を愛した母」に
思える。







異常なのは、
その母の「愛」を感じ取れなかった
息子の方、


すなわち、
私の父の方だろう……。







私には、そう思える。









先日、私に、
「息子さんに

迷惑をかけられ、
嫌な思いをした」と
言う人がいた。







それで、
私は、
息子に

事の真相を確かめつつ、


息子が
これ以上の窮地に陥らぬよう、


今後のために
必死に

助言を発した。







ところが、
息子は、
私の言葉の

表面だけをとらえ、


「もはや味方と思えない」と、
私を敵視し、


即、
「LINEはブロックする。
手紙は、

一切寄越すな。
預けていたタイヤも、

今回で
引き上げる」と、


事実上の
「絶縁」を
宣言してきた……。







確かに、
私の言葉には、
厳しい言葉が含まれていた。







しかし、
それは、


息子が
同じ失敗を

何度も繰り返さぬよう発した、


真剣な「注意喚起」、
「転ばぬ先の杖」だった。







息子を否定し、
非難する
ための言葉
ではなかった。







それなのに、
息子は、
私が
息子を非難し、
否定し、

攻撃していると
決めつけ、


私に、
一切の抗弁をさせないまま、


短絡的に
絶縁を

宣言してきた。








息子は、
私の父と、
とても

よく似ている。







同じ
軌道を辿り、
同じ

暴走をしている。







異常な軌道を
突っ走っている。







息子は、
言葉の

「表面」しか受け取れず、


言葉の奥底にある
「真の意図」、
「相手の気持ち」を
汲み取れない。







そんなことでは、
今後も、
悪意ある人の

甘い言葉に、
騙されるだろう。








そもそも、
今回の

大トラブルも、


息子を
甘い言葉でたらし込み、
誘惑しようとした、
悪意ある相手によって
引き起こされた。







息子は、
その人間から
サッサと逃げ出し、


距離を置けば、
良かった。







それなのに、
相手から

責任転嫁された息子は
逃げ出さず、
(逃げ出せず)、


相手の抱えた
大トラブルに
巻き込まれ、


身も心も、
大ダメージを負った……。








息子は、
今後も、
何度も
悪人に騙され、
痛い思いを
するだろう……。







しかし、
私が

助けてやることは
もう出来ないのだ……。







息子よ、
尊い命を
下らない人間のために
捨てないで……。







私が願うのは
それだけだ。









「自閉症的な人」の
という立場は、
何と
苦しい立場だろうか……。