出産の思い出・1
妊娠したのは、結婚してすぐだった。
薬局で試薬を買って試すと、陽性だった。
私は喜びながら、近所の産婦人科医院へ行った。
普段、産婦人科にあまり縁がなく、初診だった。
50歳位の男性医師「妊娠ですね」
私・大ニコニコ。
医師・
カルテの私の年齢数字を、
ボールペンのお尻でパンパン激しく叩きながら、
「あんた、笑ってるけど、大変なんだよ~!
この年で出産するのはさー!」
私・笑顔をひっこめた…。
数週間後のある日の検診。
医師
「血液をとって、アメリカへ送った。
2週間後に、FAXで結果が来るから」
私・ギョッとして、言葉を失った…。
その日まで、私は、お気楽にノホホンと過ごしていた。
しかし突如、ショックを受け、うつむいて帰宅した。
そして、真っ黒な煩悶に襲われた。
医師は、私に無断で、
ダウン症などの異常を調べる血液検査依頼を送ったのだ。
もし、異常が見つかったら、私は、どうするのか ? ? ?
今日まで、こんなにも喜んでいた新しい生命を、私は葬り去るのか?
… … … いや、 そんなことは出来ない。
新しい生命を喜んだ以上、それが何らかの障害を持った命であれ、
私は、そのまま受入れよう。
そして、喜んで育てよう。
私は、そう決意した。
しかし、突如、暗い、深い深い穴に、1人放り込まれたようだった。
這い上がる術がなく、孤立し、救援のないまま、
暗闇の中で、もがき続けているようだった。
相談相手はいなかった。
夫には、もちろん話した。
しかし、当時の夫は、仕事に忙しく、
私の不安・恐怖を分かち持ってくれるゆとりがなかった。
(私も未熟な妻だったが、
夫も、相当に未熟な夫だった…。)
どす黒い恐怖と不安に支配され、暗黒の2週間が過ぎた。
次の検診で、医師は、そっけなく告げた。
「異常はありませんでした。」
現代医療ならば、
まず、検査の前に、説明がキチンとなされるだろう。
患者本人の同意も、必須だろう。
専門家によるカウンセリングもあるらしい。
しかし、20数年前は、何ひとつ、なかった。
それにしても、
事前に、一言くらい、
医師からの説明があって然るべきだったろう…と、
やはり思う。
今思えば、あの医師が特別、横暴だったのかも知れない。
その後、少し経ってから、
私は転医しようと考え、
別の近所の産婦人科を受診した。
ハッキリとした記憶はないが、
やはり、何度か通ううちに、担当医に疑問を持ったのだと思う。
しかし、受診した結果、
私は、第2の医師の方に、不安を感じてしまった。
そして、元の医師へと戻ったのだった。
今思えば、第3の医師を受診すべきだった…のだろう。
しかし、当時の私は、
「そこまで大騒ぎするほどのことじゃない」と考えた。
しかし、その考えは、甘かった。
出産の日、それが証明されたのだった。