すずめの歌

夫と2人暮らしの日々

水虫……。

あまり
カミングアウトしたくないのだが、


私は、水虫だ。



もしくは、
水虫だった。



治ったか、どうか……?



それが問題なのだが、
あいにく、
現在は不明だ。





何年前だったか、
忘れてしまったが、
夫から
うつった。




これも、
いつだったか、
忘れてしまったが、


小学生だった息子が、
テレビの (番組名も、忘れた)
「モヤッとボール」が、
最後に
頭の上から

ゴロゴロと出てくる番組を
好きで、

よく見ていた。




たしか、
伊東四朗が
痛い目に

あっていたように思う。




その番組を模した
ボードゲームを買ったところ、
数個の「モヤッとボール」も

付属していた。





息子が
それで遊ばなくなってから

数年後、


私は
その
適度に尖った凹凸のついたボールを使って
足の裏を

マッサージすることを
思いついた。





床にボールを置き、
足の指を使って
転がし、
何回も、
足裏をマッサージした。





ところが、
階下からの苦情により、
(今思えば、

異常な人物が階下に住んでいた)


当時は、
せっかくフローリングだったのに、
厚手のカーペットを
床に

敷いていた。





そして、
水虫の夫が
裸足で、
私の指定席に座り、
朝食をとっていた。





つまり、
私の指定席の下の
厚手のカーペットは、
実は、
水虫菌の温床だったのだ。





そうとも知らず、
私は、
「モヤッとボール」を、
そのカーペットの上で
足の裏と足の指を使って
何度も何度も、
転がした。





水虫菌を
ご丁寧に、
カーペットの毛足から掘り起こし、
まんべんなく
せっせと

足の指と足の裏に
なすり込んでいたのだ。





その後まもなく、
皮膚科で
軟膏をもらい、
患部に塗るようになった。






それから、
何年が経ったろう……。





私は、
足がとことん冷えるタイプなので、
冬には
分厚いソックスをはく。





そのため、
蒸れるのだろう。



夏だけではなく、
冬にも、
水虫に悩まされた。




しつこく悩まされた挙句、
私は
徹底抗戦を決意した。




すなわち、
季節を問わず、
一年じゅう、
軟膏を塗るようになった。




見た目がきれいになってからも、
塗り続けた。




その甲斐あってか、
最初の頃の、
指の間の皮がボロボロの状態は
きれいに治った。





今では
一見、

すっかり
きれいな足になった。





ところが、
最近、
どうも、
足の指の間ではなく、
指に隣接した足の甲が
痒い。




見た目は、きれいなのだが、
痒い。




そして、
軟膏を塗ると、
痒みが治まる。






前回、
皮膚科を受診した時は、
医師は一瞥し、
「もう治ってますね」と言い、
軟膏をくれなかった。





それで、
私は
仕方なく、
夫から

1本もらって
軟膏を塗った。





夫は、
私より
遥かに治療歴が長い。





しかし、
いまだに、
すぐに水虫とわかる外見だ。





それで、
医師も

簡単に
軟膏を何本かくれるらしい。





私には貴重だった
その軟膏が
最近
底をついてしまった。






しばらく放置し、
はっきりと水虫とわかる外見に

なってから
受診すべきか?





それとも、
痒いのだから、
サッサと

受診すべきか?




私は迷った。






迷っているうちに、
ふと見ると、
逆の足に
赤い発疹が出たことに

気づいた。




足の甲の
500円玉大の範囲に
数十個、
赤い

小さなボツボツが出ている。




痛くも痒くもない。




しかし、
初めて見る発疹だ。






今回は、
前回までとは違う
皮膚科を受診した。





平日は行けず、
混むと思いつつ、
土曜に

行った。




案の定、混んでいた。


広い待合室に、
隙間なく
人が座っている。





30分経ち、
看護師さんが来た。




「診てもらう場所は
どこですか?」
と、人体図を指し示す。




両足を指さした後、
「どうしましたか?」と
質問
され、

「片方は水虫で、

数年前から治療してます。
逆側は、

一昨日から
赤い発疹が出ました」と、
口頭で説明した。




「水虫」と、
声に出すのは、
周囲の手前、
恥ずかしかったが、
やむを得なかった。





診察室に呼ばれると、
私と同世代の男性医師が
「いつから出た発疹ですか?」
と訊く。




「水虫の検査をしますね」と言い、
ピンセットで、
赤い発疹の上の皮膚を
6.7か所、はがし取り、
「少し待ってください」
と言う。






検査結果は、
「水虫じゃありません。
あせもでしょう。」




「なにか、薬出しますか?」
と聞かれ、
「いえ、要りません」と
答えると、
「じゃあ、いいですよ」と、
帰れという態度をとる。





あわてて、
「すみません、
こっち側の水虫の薬を

頂きたいです」と
申し出た。






すると
医師は、
「えっ?」と、
態度を急変させた。





「じゃあ、もう一度
水虫の検査をしないと……」と、
明らかに
「それは、面倒くさい」という
態度を示した。





そして、
もう一度、
しげしげと足を観察し、
言った。




「きれいですよ。
水虫には見えない。
よく足を洗って、
様子を見たらどうですか?」
と言う。




「足が、
汗だらけで不潔だから
あせもになったんだ。
つまり、
逆足も、
あせもに

なりかけなんじゃないの?」と
言わんばかりの態度だった。





私は、
思いがけない展開に
言葉を失った。






そもそも、
「なぜ、
両足の水虫を

検査してくれないのか?」と、
最初の時点で
疑問は湧いていた。





しかし、
「何年も治療中だし、

痒いのだから、
それだけで、
薬を出してくれるのかも」と
勝手に

思い込んだのだった。





それが
私の

大きな失敗だった。






とにかく、
「こんなに

混んでいるんだから、
あんた一人に、

2回も検査できない」と
言わんばかりの医師の態度に、
私は
気圧されてしまった。






「最初から
両足を検査しなかったのは、
あなたのミスでしょう。
だから、

責任取って
ちゃんと検査してください」
という考えを、
冷静に訴える自信が
私には
なかった。






何か抗弁すれば、
感情的になり、
逆上し、

キレて、
医師と明確に
敵対し、
罵り倒してしまいそうだった。






瞬時に
それを恐れた私は、
全面無条件降伏を

選んだ。






「わかりました」と
立ち上がり、

待合室へ行った。





会計では
さすがに
いつもは言う

「有難うございました」の
言葉が出なかった。






帰宅途上、
自分の無能さに
私は

うちひしがれた。





とりあえず、
ナゾの発疹は、
「あせも」という診断が

下ったのだから、


それだけでも
診察代金1,550円の価値は

あるサと
自分に
言い訳した。






帰宅後、
暑かったので、
ためしに

靴下を脱いでみた。





冷えを恐れ、
長らく、真夏
にも
靴下を脱いだことは
なかった。





しかし、
脱いでみると、
涼しい上、
冷えを
つらく感じることも

なかった。





私は
驚きつつ、
「よーし、
これからは、
ソックスは脱ごう。
そうすれば、
あせもにも

ならないサ」と、
答えを出した。






逆足の水虫は、
しばらく

放置することにした。





本当に
水虫なら、
見た目も

変化するはずだ。





見た目が
変化しないうちに
痒みが増すなら、
その時は
また

受診するしかない。






今日行った皮膚科は、
平日には、
もっと親切な、

別の医師がいる。




そして、
少し離れた所には
別な皮膚科もある。






とにかく、
今後の

私の課題は、


理不尽な他者の行動に対し、
感情的にならず、



淡々と
冷静に
落ち着いて
正当な自己主張を述べることが
出来るようになること。





うーん……。




私には
難しいなあ!





しかし、
それが出来て
はじめて、
「一人前の大人」

なんだろうなあ……。





普段から
感情的にならず、
冷静に
自己主張することに
慣れなくては……。






※追記


NHKテレビで
水虫の特集番組を見た

夫によれば、


現在は、
症状のある箇所だけではなく、
広範囲に、
足全体に

軟膏を塗り、
逆足にも塗るというのが、
水虫の

正しい治療だと
されているそうだ。




なるほど、
菌は

広範囲に存在するのに、
狭い範囲しか

塗っていなかったので、
夫は
長年、

治らなかったのだろう。




その上、
夫の塗り方は
雑なので、
尚更だろう……。




塗っている姿を
近くで

よく見たことはないが、
両足にもかかわらず、

夫は
アッという間に
塗り終える。





それゆえ、
雑だと
わかる。