自閉症の医師
近所のクリニックを受診した。
初めてのクリニックだ。
まず、健診を受け、様子見をしてから
本格受診をしようかと思ったが、
面倒になり、
いきなり行った。
私には、
切らすとまずい薬がある。
それをもらいたい。
それから、
「慢性膵炎のなりかけ」と言われている。
これも、
定期的フォローが必要だ。
紹介状を持参しなかったこともあり、
いろいろ聞かれ、
10分話した。
診察だけで、10分は、
非常に長い方だ。
終わって廊下に出ると、
数人の患者が、
待ちぼうけ状態になっていた。
最初、
ホームページで院長の顔を見ると、
顔つきが非常に若かった。
40くらいか?と思った。
開院した当時の写真らしいから、
数年前の写真だろうが、
それにしても、
ずいぶん若い印象だった。
今は、50代前半だ。
それなりの予期を持って
診察室に入ると、
セカセカとしゃべり出した院長から受けた印象は、
なんと、30歳くらい。
顔・姿も若く見え、40代にしか見えない。
しかし、何よりも、
話し方が、
30歳くらいの若者なのだ。
医師らしくはあるのだが。
私は、頭の中で、大混乱した。
「えーっ? この人、本当に50代なの? ? ?」
50代前半の男性医師なら、
それなりの落ち着き、
にじみ出る貫禄、
豊富な経験から
自ずと形成される
人格の厚み、
そういうものが、
普通はあるはずだ。
ところが、彼からは、
そういうものが
全く伝わって来ない。
数年間、
大学病院で研鑽中の
非常に研究熱心な若手医師。
そんな雰囲気だけが、
ムンムン押し寄せて来るのである。
貫禄はないが、
自信はタップリあり、
知識も豊富で
言葉数も多い。
何より、やる気がハンパない。
未知の私という、診療対象を前に、
前から後ろから、
右から左から、
上から下から、
ひっくり返して眺め、
全体から細部まで、
いま理解できるだけは理解してしまおう。
そういう
医師としての使命感に基づいた
知的好奇心・意欲・熱意が、
ハンパない。
普通の開業医であれば、
廊下で待たせている患者たちを気にし、
いくら長くとも、
5分で切り上げ、
話の続きは、
次回にまわすだろう。
今まで10年
診てもらっていた医師がそうだった。
しかし、この彼は、
5分では、
まったく気が済まないのである。
どこまでも熱心に食らいつき、
探ってくるのである。
5分ほど経った時、
私は
了解した。
「この人は、自閉症だ!!!」
医業に対してのこだわりが強く、
妥協を
まったく許さない性格。
人の思惑など、忖度しない。
というより、
忖度など
できないのである。
要領の良さ・如才なさも、存在しない。
「医師」というより、
「優秀なAIを搭載したロボット」に
診てもらっている……。
そう割り切れば、良いのであろう。
しかし、
そういう経験に乏しい私には、
非常に
疲れる経験だった。
1か月後にまた来いと言われた。
しかし、どうしよう……と考えてしまう。
医師としての腕には、全く問題がなく、
むしろ、
優秀そうなのだが、
(内視鏡操作が上手いかヘタかは、
まだわからないが)
とにかく、
「普通の人」ではないため、
話しているうちに、
何だか
疲れてくるのである。
人間らしい「情緒のやりとり」が
完全に
欠落しているのである。
「悪い人」ではない感じなのだが……。
難関医学部を出て、開業医。
そういう能力と地位と財力があれば、
自閉症であれ、
このように
世間を堂々と渡れるのだな……
と、改めて思った。
しがない稼業の我が息子とは
同じ自閉症でも、
エライ違いだ……。
それにしても、
彼には、
奥さんと子どもは、いるのだろうか? ?
私には、想像がつかない……。
彼の私生活が、
全く、見当もつかず、
謎に満ちていること。
それも、私に、
何かスッキリしないモヤモヤを
もたらす……。
そして、
自閉症の彼に会えば、
おのずと、
同じく
一般社会の中で
健常者として生きているが、
ほんとうは
自閉症である息子を
想い出す。
それは、
私に
痛みをもたらす……。