すずめの歌

夫と2人暮らしの日々

納骨

青空が広がっている。



しかし、風がやや強い。






見渡す限り、どこまでも緑が広がる丘陵地帯。






父母の「夫婦墓」は、
その丘陵地帯の、最も小高い丘の上にある。






丘の上は、風がひときわ強かった。





風が強ければ、
骨の粉が吹き飛ばされるのでは…と、


私は
前夜から危ぶんでいたが、
危惧した通りの天候となった。







霊園の担当者は、痩せぎすの高齢男性だった。






彼が墓の下を開けると、
そこに、

直に父の骨が姿を現した。





火葬場で、
「立派な骨ですね」と褒められた骨。





しかし、14年後の今は、
さすがに大きな骨は

もう残っていない。







母の骨壺が開けられた。






一番上にあった
頭蓋骨の掌大の3片が取り分けられ、
骨壺を包んでいた白い風呂敷の隅に置かれた。






次に、それ以外の骨が風呂敷の上にあけられた。







強い風が、
母の薄くもろい骨の破片を
瞬時に粉に変え、軽々と吹き飛ばして行く。




私は、
あわてて風呂敷の隅を持ち上げ、風を防いだ。






取り置かれた頭蓋骨以外の骨が、
父の骨の上に置かれた。






最後に、
頭蓋骨3片を
私、夫、息子の順に素手で納めた。






頭蓋骨の薄っぺらな端っこを、
強風が一瞬で粉々にし、
あっという間に吹き飛ばして行く。







私の黒いスラックスの膝にも、
骨の粉末がサーッと白く吹きつけ、

布地の織目に潜り込んだ。







上から叩きつけるような強風が、
風除けの耐熱ガラス筒を被せた2本のローソクの火を、
あえなく

消してしまった……。








私が幼かった当時、
私の唯一の守護者であった人物。






私が最も愛着した人物。






私の生涯で、最も私を憎んだ人物。






彼女は燃やされ燃え尽き、
骨だけが残り、
墓に入るのを拒むかのように
風に飛び散りながら

墓に入った。







彼女に気に入られようとして、
彼女からの承認を得ようとして、
ひたすら努めた

私の60数年。






その努力は、
ついに
少しも実を結ばなかった。






私を憎む人物は、
私を憎んだまま、この世から去った。






彼女は、
上からギューギューと私の頭を押さえつけ、
踏み付け、足蹴にし、
私を全否定し、敵意を持って睨み付けた。







10年以上、
私に自分の面倒を見させ、
奴隷のようにこき使った。







自分の人生が不満で、
「何でお迎えが来ないのか!」と、

私に怒りを吐き出しつつ
100年と6ヶ月半、生きた。







そして、ようやく、
この世から
いなくなった。







私は、
生まれてはじめて、
「自由」の身となった。






解放された。






その「自由」を、
深く実感する日は、いつだろう……。







今はまだ、


母の軽い骨を背に負い、
風に散る骨粉を気にしながら、

トボトボと
歩んでいるような気がする……。