すずめの歌

夫と2人暮らしの日々

男はつらいよ お帰り寅さん

映画を見て、久々に感激した。




「男はつらいよ お帰り寅さん」。
(男はつらいよ 第50作)





封切時、
夫は映画館で見て、
「良かった!」と感激していた。



しかし、私は、
「昔の映像の切り貼りなんて、単なる焼き直しでしょ…
興ざめするに違いない」と思い、
全く期待が持てず、

見に行かなかった。





昨日も、
単なる暇つぶしとして、

全く期待せずに見た。





ところが、
久々に見る「寅さん」の
表情。


セリフ。


歌唱。(プロ歌手の桑田佳祐より、格段に上手く、味わい深い。)





…どれもが
やはり、
とてもレベルが高く、
みずみずしく、

新鮮に輝いていた。






そして、
自分の分のメロン1切れが

用意されていなかったために、
寅さんが

ヘソを曲げ、
周囲に当たり散らし、暴走するシーン。





寅さんが
小学生の満男の運動会に応援に行こうと張り切ったところ、
満男が嫌がったため、

家族全員が
非常に気まずくなるシーン。





寅さんの「負の面」を表現した、
この2つの回想シーンも
実に

見ごたえがあった。




「これを切り取ってきた山田監督は、さすがだ…」と
思った。





20数年ぶりにスイスから来たゴクミを、
「バリバリの国連職員」という設定にしたのも、

ピッタリ嵌まっていた。




離婚して不仲の
ゴクミの両親の夏木マリと橋爪功の演技も、
それらしく、味わい深かった。





さくらへの熱い思いを
切々と語る、
若き前田吟の一途さも、胸
を打った。





そして、私が舌を巻いたのは、


さくらが
「私、博さんと結婚する。
ねぇ、いいでしょ?いいでしょ?おにいちゃん?」と


寅さんに
必死に訴えた時に、


渥美清が
瞬時に見せた、表情の豊かさだ。




・可愛い妹の一途な恋の成就を受け容れ、
 手放しで共感して喜ぶ笑顔



・この結婚が正しいか、本当にうまく行くか?
 兄として、真面目に考える真剣さ



・可愛い妹が、
 他の男のものになり、
 自分を去る寂しさ、悔しさ





…内心にグルグルと渦巻いた、
この複雑な心情を、
渥美清は、
文字通り、一瞬のうちに、
見事に
演じ切って見せた。






渥美清は、名優だ … 。






こんなに豊潤な演技力を持つ名優は、
「100年に1人」かも知れない。





「不世出」という言葉があるが、
それが、

当てはまる俳優…かも知れない。





彼が
寅さん以外の役を演じる事が少なかったのは、
やはり、

とても惜しい気がする。





彼が、色んな役をやるところを、
私は、

もっともっと見たかった。





もちろん、
「寅さん」という役を、
これほどまでに

魅力的な存在に仕上げたのは、


彼ほどの天才が
深く集中し、
倦まずたゆまず、努力を続け、
超人的な演技力を発揮したから…なのだろうが…。








渥美清の奥様は、クリスチャンで、
渥美清は、

死の直前に受洗したそうだ。




加藤周一も、
妹さんがクリスチャンで、
やはり、

死の直前に受洗したそうだ。




クリスチャンである私の知人も、
やはり
癌死の直前のお父様を受洗させた…と言っていた。





「死が目前に迫った時」というのは、
人間にとって、

「特別な時間」なのかも知れない…。